声のようだっ
「あれもおれだ。自暴自棄だったからな。おまえは本当に運のいいやつだ。考えられることは何もかもやってみたが、それでも殺せなかった」
「大聖堂で、毒を塗った短剣で襲ってきたレンドー人もか」
ペレンは驚いた顔になった。
「その件は知らない。本当だ。おれたちは二人ともレンドー国にいたことがある。レンドー人というのがどれほど頼りにならないか、二人ともよく知っている。誰かほかの人間だろう――マーテル自身が仕組んだのかもしれない」
「どうして気が変わったんだ、ペレン」スパーホークは悲しげに尋ねた。
「マーテルに握られていた弱みがなくなった。イドラが死んだんだ」
「かわいそうに」
「おれはそうは思わん。イドラは事情に気がついたらしく、父親の屋敷の礼拝堂で一晩祈ったそうだ。そして日の出とともに、心臓に短剣を突き立てた。すべてを記した手紙を召使に持たせて、ここに届けさせたんだ。その男はマーテルの軍勢が街を包囲する直前に到着した。イドラはもう自由だし、その魂も安全だ」
「だったら、どうして毒を?」
「おれはイドラのあとを追う。マーテルはおれの名誉を奪ったが、愛までは奪えない」ペレンの身体が狭い寝台の上で硬直した。「まったく、よく効く毒だ。名前を教えて推薦したいところだが、小さき母上は油断ならんからな。少しでも隙を見せたら、石だって甦らせかねない」ペレンは秘儀の教母に微笑みかけた。「おれを許してくれるか、スパーホーク」
「許すも許さんもない」スパーホークは声を詰まらせ、友人の手を握りしめた。
ペレンは嘆息した。
「おれの名前はパンディオン騎士団の歴史から抹消され、侮蔑とともに記憶されるんだろうな」
「おれがそんなことはさせない。おまえの名誉は守ってやるぞ」スパーホークは約束のかわりに、さらに強く手を握りしめた。
セフレーニアが寝台の反対側の、もう一方の手を握る。
「そろそろ終わりだな、願わくは――」ささやくようにそう言うと、ペレンは静かになった。
セフレーニアの悲嘆の声は、傷ついた子供の泣きた。教母はペレンのぐったりした身体を抱き寄せた。
「そんな時間はありません!」スパーホークの鋭い声が飛んだ。「いできますか。クリクを呼んできますから」
セフレーニアは驚いたように騎士を見た。
「ペレンに甲冑を着せなくてはなりません。それからクリクとわたしで、城壁のすぐ内側の街路に遺体を運びます。胸にクロスボウの矢を打ち込んで、街路に放り出すんです。そのうちに誰かが見つけて、みんなペレンが敵の矢にやられたと思うでしょう」
「なぜそんなことを?」
「ペレンは友人でした。名誉を守るす」
「あなたを殺そうとした人ですよ」
「違います、小さき母上。わたしを殺そうとしたのはマーテルです。やつはそのために、ペレンを道具として利用した。悪いのはみんなマーテルなんです。いずれ近いうちに、あいつとははっきり決着をつけるつもりです」しばらく言葉を切って、「あの仮説は考え直さなくてはなりませんね。これで大きな穴があいてしまった」そのとき毒の短剣を使ったレンドー人のことを思い出し、「あるいは、ほかにも暗殺者がいるということなんでしょうか」